夜間はやはり人口照明にたよらざるをえません。昔、太陽が沈んだ後のやみの中で、太陽に代わる光は「火」であったに違いありません。

神話の中で、太陽を崇める話しに次いで「火」の神を語ったものが多くあるのも、食物の煮炊き、暖、そして夜の光を与えてくれるからでしょう。

タイマツの火が最古
闇の中で光る火の利用で、人間が工夫した最古のものはタイマツではないでしょうか。そしてタイマツの本数を加減したり、太さ長さを調節して、その用途に合ったものに工夫したに違いありません。人口照明のない時代の光、つまり「あかり」としての機能がそこにみられます。

やがて、自由に持ち運びできる行灯(あんどん)が、夜の明りの重要なものとなってきます。さらにランプとなり、今日の電灯へ。

本質が忘れられがち
長い夜のやみを過ごした時代から、自由にどこででも「ひかり」を手に入れることのできる時代へと変わってきました。しかし、反面、自由に「ひかり」を手に入れられるようになって「あかり」の持つ本質も忘れられがちになってしまいました。

最近、暖炉が、そして囲炉裏のある温泉宿が若者の人気を集めてきているようです。これは「火」のもつ、光の機能に加えて温かみに対する人間の欲求のあらわれのように思われます。

また、炎のもつ、ゆらめく光の原始的な魅力と、家中の者が一つの「あかり」を求めて集まる、なごやかさに対するあこがれのようなものにも思われます。

まず、あかりの機能的な照度について考えてみましょう。

そこで住宅の用途、作業内容による標準的な照度(ルクス)を次頁にまとめてみました。

照度の差は目に負担
*印のあるものは、局部的な照明によってその照度を得てもよいものです。ただしその場合、その室の全体的な照度は、1/10以上あるのが望ましいでしょう。局部照明の場合とその周辺の明るさとの差が離れすぎますと、目が疲労する原因になります。

また、8畳間程度の広さの室のおおよそのワット数をルスクに合わせて、白熱灯と蛍光灯に分けて同じ表で示してみました。光源を一つとし、反射率を天井70%、壁50%、床10%として略算してあります。

実際には光源の数を増したり、壁面などの反射率、光源の合理的なレイアウトなどによって、より少ないワット数で同程度の照度は得られます。

照明器具の形のみにとらわれず、使用目的、雰囲気に合わせた全体的な照度、照明設計が大切です。

家事室や台所のように、作業中心の室は、全体を明るくし、自然光の光に似た蛍光灯がその用途に合っていると思います。

居間での団らん、食卓の照度は、火のもつ温かみや、人を寄せ集める炎にも似た照明がよいでしょう。

名月には休む鵜飼
薄明りの中で、シンボリックに光る「あかり」を演出することは、きっと今までにない家族の団らんを生むはずです。クリスマスツリーの楽しげな雰囲気を、日常的に演出することが出来ます。

岐阜の鵜飼は、中秋の名月には休みとなります。かがり火の明りをより有効に使うために、明るい夜は休んだのでしょう。

しかし、十五夜の月見はともかく、十九夜、二十三夜など月待ち行事が多くあることを思うと、遅くなって現れる月の光に揖怖(いふ)の念をおこしたように思います。

やみの中で月の光は、きっと鵜飼を休ませるだけのありがたさ、美しさがあったに違いありません。

一度、家の中の照明を消して、月の光をながめてみて下さい。そして、闇の中で、一つずつ照明をともして、はたして人々が集まりなごむ「あかり」として機能しているかを確かめてみて下さい。その体験を、光としての機能ばかりでなく、あかりとしての照明計画に活用して下さい。