自然光は、その「光」としての性質、つまり無料であるにもかかわらず、その照度がいかに豊かであるかがおわかりいただけたと思います。

確かに、平屋であれば自由に工夫して、自然光を十分に各室に採り入れることができます。しかしながら敷地条件により、平面計画が南北に長くなってしまったり、また、二階建て、三階建てになってしまったりすることもあります。

しかし、中庭を取り入れたり、一階と二階をずらしたりして、合理的な平面計画をすれば、自然光を有効に各室へ採り入れることが可能です。工夫をこらしつつ、自然光をより有効に利用することが大切です。そのためには人間の目の機能に合わせた計画が重要になってきます。

自然光は晴天時の10万ルクスから闇夜の0.1ルクス程度まで、広い範囲で変化し、人間はこの範囲の端から端までを利用することが可能です。人間はこの瞳孔(どうこう)の大きさを変えるだけでなく、錐(すい)状体と桿(かん)状体の名を持つ、網膜の二つの視細胞を交互に働かせて、この明るさの範囲の中の変化を調節しているのです。

耳や皮膚の感覚と目とでは、この点が異なります。いかに準備をしていても耳元で「ワッ」と叫ばれればやはり苦痛です。また、地上の温度はマイナス50℃からプラス40℃までも変化しますが、生身の肉体だけでこの範囲に十分適応できる皮膚機能はありません。

しかし、目の場合は、暗さに慣れること、つまり暗順応の機能があり、10分間程度で明るさに順応します。そして最初の30秒程度でその順応の程度はかなり進みます。晴天の日、外部の何万ルクスという照度に慣れた目にとって、やはり3千ルクスあるといっても、北側の部屋はその対比からかなり暗く感じるものです。

玄関ホールは自然光を十分採り入れて明るくし、そして北側へつづく廊下は連続的に暗くし、暗順応にあった明るさにしていけば、北側の部屋は思いのほか明るく感じるものです。

人口照明に比べて、自然光は不安定にものです。しかし、それは人工的な不安定さではなく、リズムがあり、また趣のあるものです。

中廊下に一条の光
暗い廊下に落ちる一条の光は、照度もさることながら、人を導き、外部の天候を予感させ、季節の変化を語ります。

それは光から人間の為のあかりへと変化した自然光です。このような生きた自然光を採り入れる工夫を是非して下さい。



岐阜県・揖斐川町歴史民俗資料館ホール