【大切なもの−書評欄】   (大垣商工会議所会報より)
貴方にとって「大切なもの」は何ですか、と問われ即答出来なかった。

私は「大切」感が希薄なのかもしれない。多くの知人・友人、そして彼らとの楽しい語らい、故里掛川、大垣、我が娘達、オット忘れてました、両家の両親、本当に忘れていた、愛する妻。全てが同等に大切である。

建築・都市関係の書籍は比較的多く目を通しているつもりであるが、商工会議所の地域振興や中心市街地の活性化の手伝いでは、建築の知識・知恵だけでは対応しきれない。広範囲の分野の知識・知恵が不可欠となる。分野毎の的を射た書籍は、多くが雑誌の書評欄で識る。

最近、ある書評欄(多分週刊文春の『文春図書館』であろう)で「ダヴィンチの二枚貝」を識った。進化論の概説本で、その表題となっている一説から、レオナルド・ダヴィンチが、化石の二枚貝が山の山頂からも発見されることに疑問を抱き、天動説の時代ゆえ「プレート移動」など知るよしもなく、地球も人間と同じ生命体であるに違いないと、その証明に悪戦苦闘する様が楽しく語られていた。

物質は外気温度が0℃であれば0℃に、40℃であれば40℃になる。ところが生命体である人間は、外気温度の変化にもかかわらず36℃の体温を保っている。NASAが宇宙で生命体を探す時、この恒温性を基本にしているとのこと。

水星や火星は時間と共に、その温度を変化させ続けているのに、地球の気温の変動は、他の惑星に比べれば著しく微妙である。その意味では、ダヴィンチが地球を生命体と定義したことは正しかったとも言える。そんな事柄を識り得たのも書評欄のおかげであり、書評欄が、私にとって大切なものの一つであることは確かである。

そして、大垣市の中心市街地の活性化とそのアイデンティティーの確立が、私にとって、今大切なものとなっている。
日本でも有数の、歴史・文化遺産のストックがある京都、奈良、金沢、高山など、歴史・観光を主体とした商業都市でも、中心市街地の空洞化が今日的問題となっている。ましてや、地方都市にあっては、その比ではない。

大垣市では、平成10年に「大垣市中心市街地活性化基本計画」を策定し、その実行組織として、商工会議所内に「大垣市TMO」を設置して、中心市街地の活性化に取り組んできた。2年程前から、「大垣市TMO」の「グランド・ヴィジョン策定」の役を仰せつかっている。

今年も、「若者が見た大垣のまち」と題して、名古屋大学の清水裕之先生、有賀隆先生に御協力を頂き、大学院環境学研究科院生と共に、シンポジウムを開催した。

それを受けて、中心市街地の再開発を含めた活性化の具体案を創るべく、コンセンサス形成の為の事業が開始された。商店街の人々、町づくりのボランティアの方々から、種々な意見が出されたが、その基となる意見は「ハードかソフトか」といった二元論であった。特に、町づくり関係の人々からは「ハード」に対する拒否反応が強く、行政に対する、いわゆる「箱物主義」批判がそのまま現れていた。ソフトの無いハードなどあり得ないと思いつつも、日頃の我々建築家の社会に対する態度が、彼らに不信感を抱かせていることを痛感した。

話しは戻るが、地球の外周を取り囲むオゾン層は、西濃地方から桑名にかけて点在する輪中堤にも似ており、生命体とまでは言わないが、「地球は輪中」との思いがする。
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